留学生雇用をする際は、正社員雇用とアルバイト雇用で在留資格の変更や28時間ルールなど、雇用側が行うべき手続きが変わってきます。
また、留学生を正社員雇用に切り替え可能なケースと切り替え不可のケースもあります。留学生を雇用する際にどのようなプロセスが必要なのか雇用形態別に正しく理解しましょう。
日本に学びにくる留学生の実態
留学生の数は年々増加傾向にあります。
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の平成30年度外国人留学生在籍状況調査結果によると、留学生の総数は298,980人。前年に比べて約3万人、12%増となっています(平成30年5月1日現在)。
その中でアルバイトをしている方は約75%にものぼります。
留学生のアルバイト事情
日本学生支援機構の「平成29年度私費外国人学生生活実態」によると、外国人留学生が最も多く働いているのは、飲食業。次にコンビニなどの販売、翻訳通訳、語学教師と続きます。
OECDの発表によると、日本では留学生に認めている週労働時間は28時間と、アメリカやカナダの20時間、フランスの18,5時間に比べて長く、学費や生活費を稼ぎながら勉強できることは、日本への留学する理由にもなっています。
働きたい留学生が多く、労働者に不足に悩む企業にとって、重要な存在になってきています。
しかしながら、外国人だからという理由のみで最低賃金以下で働かせる企業も少なくありません。
国籍に関わらず、日本の労働基準法が適応されます。条件を満たせば、日本人と同様に有給休暇の付与や保険加入も必要になりますので、しっかりと手続きを進めましょう。
留学生をアルバイト雇用する際に気をつけなければならないこと
前述の通り、労働者確保に悩む企業にとって魅力的な存在である留学生ですが、アルバイト採用するにあたり気をつけなければならない点がいくつかあります。
申請者のステータスを確認しないと、不法労働者を雇用したことになり罰則を受けるケースもあるので注意が必要です。
アルバイト活動ができる留学生とは?
日本にいるすべての留学生がアルバイトで働けるわけではなく、留学生がアルバイト活動をするためには、地方入管管理局へ「資格外活動許可」を申請する必要があります。
資格外活動許可とは法務省によると「在留資格で認められた活動以外の活動で、それによって収入・報酬を受けるもの」とされています。
つまり、学業以外のアルバイトなどの活動でお金を得ることを許可してくれる制度です。この資格外活動許可を持っていることが、アルバイト採用できる留学生の第一条件となります。
採用する前の確認事項
在留カードの確認
画像の引用元:ぶんラボ
在留カードとは、日本に中長期間在留する外国人に対して交付されるカードです。
在留カードには氏名等の基本的身分事項や、在留資格、在留期間が記載されています。
採用担当者は、このカードでもって在留資格、在留期間、在留期間満了日を確認する必要があります。
資格外活動許可を申請している留学生のカードの裏には、その旨の記載があります。面接にきた留学生が資格外活動許可を持っていない場合は、必ず契約時までに取得することが条件になります。
※面接時の段階で在留カードの提示を求めるのは、職業安定法に抵触する可能性があります。この時点では口頭での確認にとどめましょう。
パスポートの確認
画像の引用元:法務省
パスポートに、上陸許可証印のシールが貼ってあるか確認します。
上陸許可の証印は、桜と富士の絵があしらわれたシールになっており、この証印には日本で行うことのできる活動を示す「在留資格」と日本に滞在することのできる期間である「在留期間」が表示されています。
※平成24年に施行された新しい在留管理制度により、今まで必要であった「外国人登録証明書」は不要となりました。
採用後の注意事項
留学生が資格活動許可を得て行えるアルバイトには、以下の条件があります。
- 1週間の労働時間が合計28時間以内であること
- 在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間にあるときには、1日について8時間以内であること
です。これよりも長い時間働かせることは、法律で禁止されています。
また、この条件を守っていても留学生をパチンコ店やゲームセンター、スナックなどの業種で働かせることは出来ません。
留学生が学校を卒業してからも雇用を続ける場合は、特定活動の在留資格(ビザ)を更新してもらう必要があります。
在学中に内定が決まらずに日本で就職活動を継続したい学生に認められている制度で、申請、更新すれば、留学生であるときと同じように週28時間以内アルバイトが可能にあります(期間は最長1年間)。
外国人雇用状況届けの提出
また、留学生を雇用した場合、雇用対策法28条により、ハローワークに留学生雇用の届け出を行う必要があります。
ハローワークの窓口で届出を行うか、外国人雇用状況届けシステムを利用します。
指名や在留資格、在留期間など基本的なことを記入(または入力)し、申請します。
外国人留学生を雇いながら、届けなかった場合指導、勧告の対象になり、30万円以下の罰金が課せられる場合があります。
また、留学生がアルバイトを辞める際にも同様の申請が必要です。ただ、申請書の記入だけで済み、面倒な手続き等は不要ですので安心してください。
給与・保険などについての留意点
留学生にも、労働基準法、最低賃金法などの一般法は適用されますので、日本人を雇う際と同じ額の賃金を支払う必要があります。また、労災保険も同じく適用されます。
留学生だからといって最低賃金に満たない時給で働かせることは許されません。
なお留学生は昼間学生に該当するため、雇用保険は対象外になります。健康保険、厚生年金保険等も対象外です。
契約後に、言語の壁にはばまれて労働条件でトラブルにならないように、契約書や労働条件通知書を用意しておくことが理想です。
退職後のハローワークへの届け出も忘れずに
留学生が退職した際は、在留資格や雇用期間をハローワークに提出する義務が雇用側にあります。退職してから10日以内と決まりがあり、うっかり忘れてしまうと罰金の対象となりますので、注意しましょう。
- ハローワークに書面にて提出する
- オンライン「外国人雇用状況報告システム」にて提出する
留学生アルバイトを正社員雇用する場合
優秀なアルバイトを正社員に登用することは、雇用側にとってはもちろん、日本での就労を希望している留学生にとっても、就職活動の手間が省けて効率面で理想であると考えられます。
留学生アルバイトを正社員に登用する場合の注意点をみていきましょう。
在留資格変更の手続きが必須
前述の通り、留学生は週28時間しか働けないことになっているので、そのまま正社員に登用することはできません。在留資格を「留学」から、就労系のものに変更してもらう必要があります。在留資格を変更するためには、以下4点が必要になります。
- 在留資格変更許可申請書
- パスポートおよび在留カード
- 活動内容がわかるもの(雇用契約書など)
- 企業の事業内容を証明する書類(登記事項証明書、賃貸対照表など)
雇用側が用意する書類もありますので、正社員登用が決まったら早めに用意しておくとスムーズです。
また、入社までには在留資格を変更する必要がありますので、余裕をもって申請するようにしましょう。
万が一在留資格が「留学」のまま就労させた場合は不法労働助長罪に当たり、雇用主が3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処される場合がありますので注意が必要です。
留学生を正社員雇用に切り替えられない可能性もある?
就労系でも最も主流な在留資格は「技術・人文知識・国際業務」です。
留学ビザから切り替える際の多くの方は、これに当てはまるでしょう。
この就労ビザが下りる条件として、日本語レベルN2相当以上、大卒以上、職務に関わる専攻など、申請者の実力と企業側の採用ポジションのマッチ度が高くなければ、ビザが下りる可能性は難しくなります。
そのため、留学生でも最終学歴が高校卒業であったり、採用ポジションとは全く関係のない専攻である場合はビザが下りにくくなるでしょう。技術・人文知識・国際業務で申請する際の企業と申請者の基準については、下記記事よりご確認ください。
正社員登用の際にも改めて外国人雇用状況届けの提出を
留学生アルバイトを正社員に登用する場合は、賃金などの契約内容が変更されるので、アルバイト雇用の際に提出した外国人雇用状況届けをあらためて提出する必要があります。
留学生の就職状況
留学生の雇用実態
日本学生支援機構による「外国人留学生在籍状況調査結果」によると、高等教育機関留学生は中国人留学生の就職率は平成28年には1万人を突破し、年々増加してきているものの、同じアジアでも韓国や台湾などはほぼ横ばい。
留学生の数と比較すると、留学生の日本での就職はあまり進んでいないのが実情です。
なぜ、進まない?留学生雇用
企業が留学生を採用する最大の動機は優秀な人材の確保です。
しかし、留学生の採用にはさまざまな手続きが必要になり、それに対応できるための社内の受け入れ体制が整っていない企業が多く、そのために実際には採用が進んでいない実態があります。
また、コミュニケーション面で現場の社員に不安感を与えないように気を配るあまり、能力が優秀であるだけでなく、「ビジネス上級レベル」以上の日本語能力を求める会社が多くなっていることも要因になっています。
さらに、在留期間まで残りわずかで就職活動に割く時間がない、留学生を採用している企業の求人情報が探しにくい、採用までのプロセスに時間がかかり、費用がかさむ。といった理由から、日本での就職活動を望みながら諦めざるをえない学生の存在も。
就職を希望している留学生と、留学生雇用の意欲のある企業のあいだにミスマッチが起きてしまっています。
留学生雇用を進めるために
企業と留学生の双方にとってメリットのある採用活動をしていくために、まずは必要な手続きを把握しておくことが大切です。
そして、採用後の活躍を支えるために、日本語以外の言語による丁寧なマニュアルの作成、文化的摩擦が起こらないような配慮、文化の違いによって柔軟性を持った働き方ができる社内制度の整備などが必要になってくるのではないでしょうか。