2019年4月より外国人受け入れ制度「特定技能」が新設されました。
人材不足に悩む多くの企業にとって外国人受け入れ制度の門戸が広くなることはメリットも多いでしょう。
一方で複雑にみえる制度形態にどのような準備や知識、採用フローが必要なのか不安に思う人も多いのではないのでしょうか。
本記事では特定技能の概要から採用フローまで、はじめて外国人採用に触れる方でもわかるように解説していきます。
外国人受入拡大 5年で50万人計画が始動
特定技能の概要
2019年5月現在、特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類が設けられています。特定技能外国人とは「特定技能1号」及び「特定技能2号」の在留資格を持つ外国人を特定技能外国人と呼ぶことが法律に明記されています。
学歴を問わないため、特定技能新設前の就労資格を保持する外国人よりも、就労可能な外国人の母数が広がるといえるでしょう。
特定技能1号とは
「特定技能1号」とは2019年5月現在下記の14分野が定められている特定産業分野にて業務に従事するための資格です。技能水準については試験等で確認が可能で、在留期間は通算で5年を上限としています。
しかし、技能実習2号の修了生に限ってはいくつか企業への大きなメリットとなるポイントがいくつかあります。
技能実習2号を修了した外国人は試験が免除されるため、飲食料品製造業への移行対象である技能実習2号の10職種・15作業を修了した人は、特定技能1号の飲食料品製造業への全ての分野に就労できる資格を得ることができます。また、技能実習を修了した外国人が、特定技能に移行した場合は、最長で10年間在留可能です。
企業としてはある程度技能を持つ人材を長期的に雇用が可能で、雇用人数枠の制限がないため人手不足解消のために本資格が大きなメリットになる可能性は高いです。
得産業分野とされる14分野
(1) 介護 (8) 自動車整備
(2) ビルクリーニング (9) 航空分野
(3) 素形材産業 (10) 宿泊
(4) 産業機械製造業 (11) 農業
(5) 電気・電子情報関連産業 (12) 漁業
(6) 建設 (13) 飲食料品製造業
(7) 造船・舶用工業 (14) 外食業
特定技能2号とは
「特定技能2号」とは同分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。2019年5月現在、本資格が適用されるのは「建設」及び「造船・舶用工業」の2分野となっています。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
在留期間 | 1年、6か月または4か月ごとの更新。通算で上限5年まで | 3年、1年または6か月ごとの更新 |
技能水準 | 試験等で確認
(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除) |
試験等で確認 |
日本語能力水準 | 生活や業務に必要な日本語能力を試験等で確認
(技能実習2号を修了した外国人は試験 等免除) |
試験等での確認は不要 |
家族の帯同 | 基本的に認めない | 要件を満たせば可能
(配偶者、子) |
生活者としての支援の有無 | 有(受入れ機関又は登録支援機関によって支援される) | 無 |
受け入れ数の想定推移
厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ によると、平成30年10月末時点で外国人労働者数は1,460,463人で、前年に比べて14.2%の増加しました。平成19年に届出が義務化されて以降、外国人を雇用している事業所数及び外国人労働者数ともに過去最高を更新しており、今回の受入拡大によりさらに増えることが想定されます。
農林水産省は特定技能の外食業分野おいて2019年度~ 2023年度の5年間の受入れ見込み数を最大53,000人と想定しています。(参照:外食業分野における外国人材の受入れについ)また、政府試算で介護業は初年度に5,000人を受け入れ目標とし、5年間の累計で5万~6万人を受け入れるとしています。ビルクリーニング業は2,000人、累計2万8,000~3万7,000人、宿泊業は950~1,050人、累計2万~2万2,000人、建設業は5,000~6,000人、累計3万~4万人、飲食料品製造業は5,200~6,800人、累計2万6,000~3万4,000人としています。
予想される私たちの生活への影響
外国人の受け入れが拡大される中、私たちの生活においても外国人と関わることが多くなることが想定されます。日本は島国で、これまで外国人と共生する機会というものは多くありませんでした。また、共に働くことになるとより一層言葉や文化の壁に直面することもあるでしょう。
しかし、少子高齢化が進み、人材不足が顕著になりつつある現在、生活を共にしていく隣人として、そして地域や企業として多様な背景を持つ人々と共に生きていく意識を持つことが今後の鍵になってくるともいえるでしょう。
雇用におけるルール
では、実際に採用する際はどのようなプロセスを踏む必要があるのでしょうか。外国人雇用の特別なルールもあるのでポイントをみていきましょう。
就労ビザ可能な人材か確認
外国人労働者を採用する場合、まずは在留資格の有無の確認が必須です。在留資格を持たない外国人採用は難しく、さらに業務内容がその在留資格の就労制限内のものであるかを確認する必要があります。
詳しい就労ビザに関する基礎知識はこちらの記事をご覧ください。
就労可能な在留資格
外国人における在留資格は新たに特定技能が加えられて現在は以下の6種類です。
就労において、各在留資格で制限があるので注意が必要です。
在留資格 | 該当者例 | 就労制限 |
専門的・技術的分野 | 医療従事者・教育関係者・グローバル企業転勤者・弁護士 | 在留資格に定められた範囲での就労 |
技能実習 | 製造業や農業等の分野における技術習得者 | 最長5年、実習修了後には帰国しなければならない |
特定活動 | EPA看護師・介護福祉士候補・ワーキングホリデー、アマチュアスポーツ選手など | 3年以内に国家資格に合格しなければ帰国 |
特定技能 | 介護や宿泊など定められた14分野の特定産業分野にて業務に従事する者 | 1号は上限5年、2号は上限なし |
資格外活動 | 留学生などのアルバイト | 週28時間以内・長期休暇中は1日8時間以内の労働時間制限 |
身分に基づく在留 | 日本人の配偶者・永住者・定住者 | なし |
注意点
在留資格に関するポイントは上記の通りですが、どんな雇用形態であれ、在留資格以外に外国人雇用を受け入れるために企業として注意するべき項目はいくつかあります。
例えば、日本語能力の資格を確認し、業務に支障をきたさないかどうかを見定めるなど、さらには社内体制において人材の能力をしっかり最大限発揮できる環境を整えられるかも重要なポイントとなります。
外国人雇用の際の注意点についてはこちらの記事からも詳しく解説しています。
雇入れ、離職時の届け出
外国人の雇入れ、離職の際にはハローワークにて雇用主による届け出が義務づけられています。届出方法は外国人雇用者が雇用保険の被保険者か否かによって、使用する様式や届出先となるハローワーク、届出の提出期限が異なります。
雇用管理の義務と再就職支援
届け出と合わせて、「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」に基づき雇用管理の改善や、その外国人が保持している在留資格に基づいてスムーズに再就職ができるよう支援に務めることが義務とされています。
雇用管理については適正な賃金や労働時間を適用することや安全性を確保することなどが基本とされています。
詳しい雇用管理基準について:厚生労働省 外国人雇用はルールを守って適正に
雇用形態別の採用フロー
採用フローは雇用形態によって大きく変わりませんが、いくつかの注意するべきポイントについてみていきましょう。
採用から入社後の労務管理
在留資格とビザの確認、保険加入等の書類手続きがいくつか必要です。労務管理についても厚生労働省によって定められた義務があります。抜け目があると、罰金の対象等になる可能性もあるので、しっかりと確認を行いましょう。
人材の募集
人材の募集方法にはいくつかあります。どういった募集方法が自社のできる範囲で、マッチするのかどうかを見極めて募集を行いましょう。
- 民間人材会社からの紹介
- ウェブサイト、新聞や雑誌で直接募集をする
- 留学生を抱える大学や専門学校の紹介
- ハローワークからの紹介
- SNSでの求人(FacebookやLinkedInの活用)
面接
面接ではなぜ働きたいのかなど、日本人雇用者と同様に意思の確認を行いましょう。また、日本の労働法上国籍によって差別をすることは禁じられています。面接では外国人や日本人というスタンスを持つのではなく、一人材として判断を行ないましょう。
国外在住の場合はSkype等を使ってのオンライン面接、国内在住で対面が可能な場合は実際に会っての面接が良いでしょう。
一方で、既に国内在住の場合は特別に確認するべきポイントもいくつかあります。
5つの資料の持参をお願いし、確認する
- 外国人登録証明書
- パスポート
- 就労資格証明書
- 在留カード
- 履歴書や日本語能力試験の結果等
これによって就労資格や滞在期間の確認が可能です。
ビザ申請
ビザの更新をする場合には、最寄りの入国管理局で申請を行ないます。海外在住の場合と国内在住によって申請先が異なります。
雇用企業が外国人を海外から呼び寄せる場合
▷勤務地を管轄する入国管理局(地方支分部局、支局、出張所)
既に日本に滞在する外国人がビザ更新などを行う場合
▷外国人社員の住所地を管轄する入国管理局(地方支分部局、支局、出張所)
地域によっては例外もあるため、事前に申請しようとする入国管理局に受付可能かどうかを確認しましょう。
海外在住の場合は入社前サポート
まず、海外在住者に対しては多くの企業では在留資格認定証明書を交付する手続きを行います。手続きには2カ月~4カ月を有することがあります。また、住居の準備や日本の日常生活についての説明等、業務内容以外もしっかりとサポートしていきましょう。
国内在住の場合はビザ更新日・在留資格確認
国内に在住している場合は在留資格の確認をしましょう。留学中の学生を採用する場合は在留資格を変更する必要があります。
また、ビザの更新日の確認過ぎての滞在は不法滞在とみなされることがあるため、ビザの期限の確認をしっかり行いましょう。また、持っている在留資格と業務内容が一致しているかどうかも重要な確認ポイントです。
労災・雇用保険、健康・厚生年金保険への加入
外国人でも社会保険に加入しなければなりません。各種の保険の加入義務等をみていきましょう。企業に勤めている場合は、労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金すべての加入が義務化されています。
労災保険のみ就労時間や雇用期間が短い場合に雇用保険の適用が除外されます。アルバイトなどは短時間労働者に区分され、「31時間以上の労働」や「1週間20時間以上の労働」がある場合は雇用保険の加入対象者となります。
参照:日本年金機構|従業員を採用したときの手続き :総務省|外国人住民に係る住民基本台帳制度
入社後に発生する手続き(ビザ更新、外国人雇用の届け出など)
外国人労働者の採用及び退職の際、「外国人雇用状況の届出」をハローワークへ提出することは全ての雇用主の義務となっています。外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間等の確認、届け出を怠ると、30万円以下の罰金が科されるので注意しましょう。
雇用形態別のポイント
それぞれの雇用形態によって抑えるべきポイントがありますので、みていきましょう。
特定技能雇用の注意点
「フルタイム」が基本であり、いくつかの特定技能所属機関を掛け持ちすることは認められません。また、受け入れる外国人に対する報酬は、預貯金口座への振込等支払額が確認できる方法であることも注意が必要です。
アルバイトの場合の注意点
就労活動に制限がない在留資格を持つ場合、アルバイトとして雇用が可能です。就労制限がない在留資格は以下の5つです。
- 永住者
- 定住者
- 日本人の配偶者
- 永住者の配偶者
- ワーキングホリデービザ
なお「留学」「家族滞在」「短期滞在」「文化活動」「研修」の5種類は、就労が認められない在留資格ですが、「留学」と「家族滞在」の在留資格については地方入国管理局で資格外活動の許可を受ければ、アルバイトとして勤務ができます。就労時間は原則として週28時間、その外国人が在籍する教育機関が長期休業期間中であれば、1日8時間までの就労が可能です。制限を超えて就労をさせてしまった場合、雇用主は上記と同じ罪に問われるため、十分注意しましょう。
契約社員・派遣社員の場合の注意点
基本的には手続き等は他の雇用形態と大きくは変わりませんが、証明するべき書類の発行元が派遣元なのか派遣先かが重要です。派遣の場合、派遣元と外国人との間に雇用関係があるため、基本的には派遣元との雇用契約書等を発行してもらう必要があります。
また、派遣先は派遣元との労働者派遣契約で定めた就業日や就業時間、時間外労働等の限度内で派遣労働者を就業させる必要があり、派遣元の36協定の内容に縛られることになります。派遣元の定めた36協定の内容を把握しておきましょう。
さらに、三者間の契約の形態によっては、人材派遣ではなく請負契約となる可能性もあります。その場合は法律が変わってくるため、指揮命令や監督責任の所在をはっきりさせておくべきです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?在留資格の拡大によって今後さまざまな形で外国人の雇用が可能になります。人材不足に歯止めをかけるべく、今後外国人の雇用は重要なカギとなるでしょう。さまざまな手続きやプロセスが複雑に見えるかもしれません、しっかりと理解と知識を得れば人材確保の大きなチャンスとなるでしょう!