近年、外国人労働者の受け入れを巡って議論が繰り広げられています。
その中で、キーワードの一つになっているのが外国人技能実習制度です。
もともと外国人技能実習制度とは、日本の技術・知識を途上国に伝え、その国の経済発展に寄与するための制度でしたが、現在は日本企業側も外国人労働者から刺激を受け、メリットが享受できる制度とも言われています。
しかし、外国人労働者の劣悪な職場環境、法令違反など多くの社会問題も指摘されています。
今回は、外国人技能実習制度について、制度の概要から現状の問題点にいたるまで、詳しくご紹介していきます。
外国人技能実習制度とは
まずは外国人技能実習制度の概要についてみていきましょう。
外国人技能実習制度は、日本企業が発展途上国の若者を技能実習生として受け入れ、実務を通じて習得した技術や知識を母国の経済発展に役立てることを目的とした公的制度です。
公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)のWebサイトでは、外国人技能実習制度は下記のように解説されています。
外国人技能実習制度は、1960年代後半頃から海外の現地法人などの社員教育として行われていた研修制度が評価され、これを原型として1993年に制度化されたものです。技能実習制度の目的・趣旨は、我が国で培われた技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の開発途上地域等への移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという、国際協力の推進です。(中略)
技能実習制度の内容は、外国人の技能実習生が、日本において企業や個人事業主等の実習実施者と雇用関係を結び、出身国において修得が困難な技能等の修得・習熟・熟達を図るものです。期間は最長5年とされ、技能等の修得は、技能実習計画に基づいて行われます。
(参照:公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)『外国人技能実習制度とは』)
国際貢献がもともとの目的ですが、現在では日本企業にも大きなメリットがあると言われています。
一方で、特定技能制度の導入により、そちらへのシフトが起こっています。理由としては、
- 日本の産業界の人手不足解消が急務であること
- 技能実習制度の目的と現実のギャップ、制度上の問題
- 特定技能制度による「労働力」としての外国人受け入れの明確化
- 外国人労働者のキャリアや待遇改善
このような背景から、技能実習制度から特定技能制度への移行が積極的に進められています。
現在の外国人技能実習制度
かつては国際協力の側面が強かった外国人技能実習生度。現在はどのようになっているのかについてみていきましょう。
外国人技能実習生の受け入れタイプ
外国人技能実習生の受け入れには、企業単独型と団体監理型の2つのタイプがあります。
- 企業単独型:日本企業が海外企業の職員を受け入れて技能実習を実施
- 団体監理型:事業協同組合や商工会など、営利を目的としない団体(監理団体)が技能実習生を受け入れ、傘下の企業で技能実習を実施
2023年では企業単独型の受入れが1.7%、団体監理型の受入れが98.3%とほぼ団体監理型になっています。
(参考:厚生労働省『外国人技能実習制度について』)
技能実習の区分と在留資格
技能実習の区分は受入れ方式ごとに3つに区分されます。
- 第1号技能実習:入国後1年目の技能等を修得する活動
- 第2号技能実習:2・3年目の技能等に習熟するための活動
- 第3号技能実習:4年目・5年目の技能等に熟達する活動
第1号技能実習での受け入れの職種は以下の条件を満たす必要があります。
—-
①修得しようとする技能等が単純作業ではないこと。
②18歳以上で、帰国後に日本で修得した技能等を生かせる業務に就く予定があること。
③母国で修得することが困難である技能等を修得するものであること。
④本国の国又は地方公共団体等からの推薦を受けていること。
⑤日本で受ける技能実習と同種の業務に従事した経験を有すること。
⑥技能実習生(その家族を含む)が、送出し機関・監理団体・実習実施機関等から、保証金などを徴収されないこと。また、労働契約の不履行に係る違約金を定める契約等が締結されていないこと。
参照:商工振興研究協同組合『受入れ可能職種と作業範囲について』
—-
技能実習2号は、技能実習1号で修得した技能をさらに習熟する業務でなければなりません。このため、実習が移行する際は、職種・作業内容を変更することはできないため注意が必要です。
職種と実際の作業の対応に関しては、技能実習機構(OTIT)の『移行対象職種情報』に業界ごとに詳しくまとまっているため、ご参照ください。
外国人技能実習制度の受け入れ人数枠
外国人技能実習制度には受け入れ企業の規模によって人数枠の制限があります。
実習実施者の常勤職員数 | 技能実習生の人数枠 | |
301人以上 | 常勤職員総数の20分の1 | |
201人~300人 | 15人 | |
101人~200人 | 10人 | |
51人~100人 | 6人 | |
41人~5人 | 5人 | |
31人~40人 | 4人 | |
30人以下 | 3人 |
参考:法務省 入国管理局・厚生労働省『新たな外国人技能実習制度について』
ただし、技能実習制度自体は、2024年6月に関連法が改正され、今後「育成就労制度」へと段階的に移行することが決まっています。
そのため、技能実習制度の概要資料は「育成就労制度」への移行を前提とした内容に更新されています。
技能実習の流れ
最後に、外国人技能実習制度の実際の流れを見ていきましょう。
画像の出典:法務省 入国管理局・厚生労働省 『新たな外国人技能実習制度について』
技能実習1号
まず、入国してから研修実施企業で原則2ヶ月間の講習(座学)を実施します。その後10ヶ月実習を行い、ここまでの1年目の期間を技能実習1号と呼びます。雇用関係は実習の段階から発生します。
技能実習2号
1年経過後に在留資格の変更または取得を行います。
- 送出国でその技能のニーズがあること
- 公的な技能評価制度が整備されている職種であること
- 所定の技能評価試験を行い学科・実技試験に合格すること
上記の条件をクリアした場合に在留資格が得られます。2年目が終了した時点で在留資格の更新をし、3年目の実習に入ります。この2年目・3年目の期間を技能実習2号と呼びます。
技能実習3号
3年経過後は2ヶ月以上の一時帰国を経て、在留資格の変更または取得を行います。4年経過後は2年経過後と同様、在留資格の更新をし5年目の実習に入ります。この4年目・5年目の期間を技能実習3号と呼びます。
技能実習制度は上記の最長5年に限り受け入れる制度です。
2019年から始まった「特定技能」
2019年4月に新設された在留資格「特定技能」は、技能実習制度で経験を積んだ外国人が試験なしで取得できる場合もある在留資格で、日本で学んだ知識や技術をさらに活かしてもらうことを目的としています。特定技能は、労働力不足が深刻な産業分野で即戦力となる知識や技術を持つ外国人を受け入れる制度です。
制度開始当初は14分野でしたが、2024年までに「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」などが追加され、2025年にはさらに「倉庫管理」「廃棄物処理」「リネン供給」の3分野が新たに追加される方針が示されました。これにより、2027年には対象分野が19に拡大する予定です。
特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があります。
特定技能1号:相当程度の知識や経験を必要とする技能が求められ、分野ごとの技能試験や日本語試験に合格する必要があります。技能実習2号を修了した外国人は試験が免除されます。1号の在留期間は最長5年です。
特定技能2号:より熟練した技能が求められ、2025年時点では「建設」「造船・舶用工業」など複数分野で取得可能です。2号を取得すると在留期間の上限がなく、家族の帯同も認められます。
今後は技能実習制度の廃止と「育成就労制度」への移行も進められる予定で、特定技能との連携が強化されていきます。
特定技能制度は、分野拡大や制度改善によって、より多様な外国人材の受け入れが可能となり、即戦力としての活用が期待されています。
最新情報は出入国在留管理庁の公式サイトで随時確認できますので最新情報を定期的に入手しましょう。
外国人技能実習制度のメリット
ここからは、外国人技能実習制度のメリットや問題点・課題を見ていきましょう。冒頭で解説したように、外国人技能実習生度は国際貢献だけではなく、日本側にもメリットがあります。
企業の活性化・国際化
若い活力のある外国人を採用することで企業の国際化・活性化が期待できます。実際に、実習生の仕事に対するひたむきな姿勢に心打たれる経営者・従業員も多いようです。
実習生の多くは技術習得が早く、意欲的に実習に取り組むため日本人社員によい影響を与えるとも言われています。
外国人人材を受け入れることで、上手くいけば企業文化も国際化に寛容になり、新しい考え方が生まれたり、海外進出を考えた時ノウハウ習得も期待できるでしょう。
まとめ
これまでご説明してきたように、もともとは国際貢献のために始まったのが外国人技能実習生度です。実習生を受け入れることは、企業の国際化や活性化など日本企業にも大きなメリットがあります。
また、研修生を受け入れ、業務をマニュアル化することで業務の効率化にも繋がるでしょう。雇用側が「外国人を雇用すれば低コストで済む」という認識を少しでも持っているのであれば、この制度を利用する資格はありません。
また、異国から学び・働きに来た外国人労働者の方々が、快適に働ける職場環境を整えることは非常に重要ですし、企業にとってもプラスになるでしょう。
さらに、育成就労制度への移行や特定技能制度との棲み分けなどもあり、しっかり人事戦略を検討して行くことがさらに重要になってきます。