少子高齢化社会に突入し、日本人の15~64歳の生産年齢人口は年々減少しています。
一方で、3ヶ月以上滞在する外国人の数は年々増加しており、アルバイトから高度の専門職まで、外国人は至るところで活躍しています。
中でも、中国人の割合は最も多くなっています。
平成30年末の総務省の発表によると、全体の在留外国人数は282万人で、全体の約28%にあたる78万人が中国人です。(参考:令和元年6月末現在における在留外国人数について)
この記事では、中国人を雇用する際に知っておきたい必須の届出からメリット、活用できる助成金について解説していきます。
中国人を雇用するために押さえておきたいポイント
現在増加している中国人材の雇用していくために押さえておきたいポイントと中国の就職事情をご紹介します。
中国人の就職事情
出身地が理由で進学・就職できない?
中国では人口統制を理由に行政上「農村部出身者」と「都市部出身者」に戸籍が分けられています。
この戸籍の区分けは、大学進学を決める上で大変高い壁になりました。
大学は各地域からの入学者数を決めていて、北京や上海などの地域ランクが高い都市部出身者に入学者は制限されています。つまり、出身地によっては何十倍もの倍率の中戦わなければいけません。
生まれた地域と戸籍によって進学、就職先が概ね決まってしまうのは酷な話ですが、現状の中国では地域差別は根深い課題として残っています。
月給64,000円でも止まぬ就職希望者
中国の大卒の就職率は91.5%(2018年実績)と日本と同様に高水準です。
一見、売り手市場に見えるもの、就活戦争は壮絶です。ある地方の大手企業は二流大学卒の新入社員でさえ月給約4,000元と、なんと日本円で約64,000円。
最低賃金以下、北京の平均給与の半分にも満たない給与ですが、それでも面接に来る学生は後を絶ちません。
学歴社会の中国では出身大学によって給料が違うので、同じA社に入社できたとしても、例えば一流大学出身の人は月給10,000元、二流大学出身の人は月給8,000元と給与が違います。
このように、どんなに優秀でも出身地によって就職先や大学が限定的になってしまうことや、どんなに就活を頑張っても希望の給与がもらえる企業に入りづらい現状から、意欲的な学生は海外留学や起業を目指すようです
(参考:「中国政府を悩ます就職難の大卒者」)。
増える、IT人材 IT企業の採用は有利
国慶節(10月)と春節(2月)は中国の大型連休です。11月~翌年1月、3月~5月、この期間が学生の就活ピークになります。
2018年度の就職率が高い学部生のトップ3は、ソウフトウェアエンジニアリング、エネルギー・動力エンジニアリング、エンジニアリング管理です。
中国では就職に有利なグリーン専攻と就職に不利なレッド専攻と分かりやすく分けられており、2019年にグリーンカードとして選ばれた学部は、以下の通りです。
一方で、レッドカード専攻として選ばれたのは以下の通りです。
中国の厳しい就活を乗り越える必要がある中国人の腕は確かです。
日本企業のIT人材への需要も高く、比較的中国人のエンジニアは採用がしやすいでしょう(参考:「2019年の中国の大学生就職報告発表「民生関連業種」への就職が増加」)。
インターンが重要
実力よりもコネ社会と言われる中国ではインターンがとても重要視されています。
大学3年生の内から就職希望の企業にてインターン生として働き、そのまま就職するというケースも少なくありません。
中国人学生からインターンを好むのは中国の一般的な就活方法だからと理解しておくといいでしょう。
一般文系職は885勤務、一流企業は996勤務
「885」は、「8AM出勤8PM退社5日勤務」という意味です。つまり、「996」は「9AM出社9PM退社6日勤務」になります。
中国の労働法の元、1日8時間5日間勤務と定められていますが、上述した通り一般企業の給与は非常に低く、最近では残業を好んで行う人も出てきたため885が主流になりつつあるようです。
近年は、超一流企業で働くプログラマーなどIT企業の996勤務が深刻化し、過労死や精神病が中国でも蔓延しています。
中国人材が仕事をする上で重要視していること
中国人材はどのように会社や仕事を選んでいるのでしょうか。優秀な中国人材を採用するためにも、中国人材が仕事と向き合う上で重要視していることを知っておきましょう。
仕事よりもプライベート優先
中国人は家族や恋人との時間を大事にしています。
仕事を効率良く終わらせ、定時には帰宅してプライベートな時間をしっかり取ります。
同僚は仕事仲間であり、プライベートとは混同しません。その分、日本の飲みにケーション文化は理解されづらいです。
例えば、日本人スタッフが良かれと思って開催した祝賀会であっても、定時後にわざわざ同僚と飲みに行くことに意味がないと感じられるケースもあります。
形よりも結果にこだわる
たとえやり方が雑であったとしても、結果がしっかりと出せるのであれば手段を問わないのが中国人材のやり方です。
例えば、報告書やメールにルールやフォーマットがあったとしても「報告がなされる」「メールで言いたいことが伝わる」ということのためならば自分流のやり方で進められていきます。
WeChatが主流の中国では、仕事の要件や報告も全てWeChatで行うため、わざわざ報告書を作成すること自体が少ないのも背景です。
重要でないところは緩めて、大事なところをしっかりと決めるという考え方があるようです。
職場では上司や先輩ともフラットな関係
日本では上司や先輩との上下関係を重んじ、敬語を使うなどの慣習がありますが、中国人は職場の中ではすべての人とできるだけフラットな関係でいたいと考えています。敬語が使われない可能性もあります。
上司と部下がコミュニケーションを取りやすく、フラットな関係づくりができる職場が中国人材に好まれるでしょう。
日本では上司がおごるという文化がありますが、中国では部下が支払うこともあるようです。
自分の能力を売るというスタイル
中国人材は、会社に属するというよりも自分を1つの商品として捉え、能力を会社に対して売るというような考え方をしています。基本的には帰属意識を持つというよりは、会社は自身にとって取引相手になります。
会社が人材を選ぶのと同様に、個人も会社を選ぶ権利があるという考え方があるので、中国人にとって転職は決して悪いことではなくむしろキャリアアップとして必要なステップだと捉えています。
決断は早い傾向にあり、勤続年数に関わらず離職する可能性も十分にあります。
中国人が働く上で重要視するトップ3の条件「給与条件・福利厚生・上司との関係」をしっかりと抑えて、早期離職や内定辞退が起こらないように注意してください。
中国人材と働く際に気をつけたいこと
褒めて伸ばす
中国人は他人も自分も褒めちぎる国民性にあります。
いい仕事をしたときには、しっかりと言葉にして褒めましょう。
日常的にも良いところを見つけて褒めることで、彼らのモチベーションは上がります。また、中国人は面子を重んじるため、人前で褒めることは大きな自身に繋がります。
また、企業としても表彰制度などを取り入れるなどして、中国人材を活用するために工夫していきましょう。
叱るときは面子をつぶさない
前述したように、中国人は面子を重んじる傾向にあります。
他の社員の前で怒るのはもってのほかです。叱るときは2人きりになり、はっきりとわかりやすく伝えることが重要です。
ただ叱るだけでは日本特有の価値観や文化を押し付ける可能性もあるので、問題点と改善方法を明確にして、中国人材がしっかり理解できるような伝え方を心がけましょう。
中国人材の雇用までの流れ
中国人材の採用
日本にはすでに20代の中国人が多く滞在しています。
教育機関や語学学校をあたって若い層の中国人材を確保しましょう。また、日本の就活サイトのみではなく、中国人向けの就活サイトを利用してみるのもポイントです。
在留資格の確認
雇用対象者が日本国内にいる場合は、まず在留資格の確認を行いましょう。
在留資格とは、外国人が日本に在留するために必要な「滞在資格」です。
厚生労働省の「我が国で就労する外国人のカテゴリー」では、主な在留資格のカテゴリーを確認することができます。在留資格は、その資格ごとに就ける仕事が決まっています。
このため、すでに持っている在留資格と、採用予定の仕事内容・職種が異なる場合は、該当する在留資格に変更する手続きを行わなければいけません。
また、入管法(出入国管理及び難民認定法)において、就労ビザにはそれぞれ取得の要件が定められています。
具体的には、職歴に関連する学歴や同職種内での職歴などです。
日本に外国人を呼び雇用する場合は、そもそもこの就労ビザの申請が必要で、取得の要件を全て満たしているかの確認が必須となります。
労働者、雇用主双方で確認し合うことが大切で、場合によっては入国管理局に直接問い合わせをする必要があるかもしれません。
ビザ取得のために行政書士や弁護士がサービスを提供している場合もありますが、もし人材紹介会社を通している場合は、ノウハウを持つ会社に聞いてみるのも一つの方法でしょう。
雇用契約
中国人をはじめとした外国人労働者を雇用する場合は、賃金や業務内容など、労働条件についてよく話し合い、書面による雇用契約を結びましょう。
書面にすることで理解が深まるはずですし、万が一、トラブルが起こった場合に証明書として機能します。
なお、雇用契約書や労働条件通知書等を従業員に書面で配布することは労働基準法で義務化されています。
このため、契約書の配布などを行わなかった場合、責任を問われるのは企業です。なお、外国人労働者が離職する場合にも届け出が必要となります。
中国人をはじめとする外国人を雇用するときの届出について
企業が外国人を雇用する際は国籍問わず「外国人雇用状況の届け出」が雇入れと離職のときに必要になります。
これは全ての事業主の義務であり、届け出を怠ると30万円以下の罰金が科せられます。
届出先について
雇用保険の適用を受けている事業所を管轄するハローワーク(公共職業安定所)の窓口、もしくはインターネットからも届出をおこなうことが可能です。
届様式について
民間事業者か国・地方公共団体によって異なるので、しっかり確認しましょう。
民間事業者の方の場合は、以下の2つの区分に応じて届出を行う必要があります。
届出事項も異なるので注意してください。
雇用保険の被保険者である外国人の場合
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雇用保険の被保険者ではない外国人の場合
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共通の
届出事項 |
1. 氏名、2. 在留資格、3. 在留期間、4. 生年月日、5. 性別、6. 国籍・地域、
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その他
届け出事項 |
・資格外活動許可の有無、雇い入れに係る事業所の名称および所在地など、
・「雇用保険被保険者資格取得届」に記載が必要な事項
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・離職に係る事業所の名称及び所在地など、喪失届に記載が必要な事項 |
届出期限 | 被保険者となった日にちから翌月の10日まで。 |
国・地方公共団体の場合は、以下の2つの区分に応じて届出を行う必要があります。
1.雇用保険の被保険者である外国人に係る通知
雇用保険の被保険者資格の取得届又は喪失届の備考欄に、在留資格、在留期間、国籍・地域等を記載し通知することができます。
2.雇用保険の被保険者ではない外国人に係る通知
通知様式(Excel:60KB/PDF:115KB) に、氏名、在留資格、在留期間、生年月日、性別、国籍・地域を記載して通知してください。
(参照:厚生労働省 届け出様式について)
雇用状況の届出の対象となる外国人について
在留資格「外国」「公用」「特別永住者」以外の外国人労働者が対象になります。
つまり、ほとんどの在留資格での雇用が届出の対象です。
留学生や主婦などのアルバイトにおいても届出が必須です。
日本での在留資格が「留学」や「家族滞在」である場合は就労のために「資格外活動許可」が必要となるため、注意が必要です。
外国人派遣社員の場合も派遣元が届出を提出しなければなりません。登録型派遣の場合は派遣先が変更になる度に雇入れの届出が必要です。
これは資格外活動のアルバイトも含みます。短期アルバイトでも届出は必要なので注意しましょう。
(参照:厚生労働省:外国人雇用状況届出Q&A)
中国人を雇用するメリット
では、日本企業が中国人を雇用した場合にどのようなメリットがあるのか解説していきます。
中国人を雇用することのメリット
▷中国企業や中国人顧客との取引に強くなり、事業拡大が見込める
中国は「世界の工場」と呼ばれ、世界各国の企業が製造工場を設けています。
日本国内の企業においても中国の企業や工場と取引することが増加することが見込まれます。
そういった工場との取引や中国への進出計画がある場合、日本と中国の双方の言葉や文化、習慣に精通している中国人材を雇用することで、交渉が有利になり、市場調査から事業遂行までの様々な局面においてもコストを大幅に抑えることができます。
また、日本へ訪れる中国人観光客が毎年増加している中、飲食や小売、観光業界においても接客や通訳として中国人材を雇用することで、サービスの向上や集客に繋がります。
▷若い労働力を確保することができる
少子高齢化が進む日本では、若い労働力が不足しており、人口の多い中国に若い労働力を求める向きがあります。
中国人材にとっても、特に若者は日本のビジネススタイルを学びたい、賃金が地域によっては中国よりも高く得られるなど日本で就職するメリットは大きいです。
中国人材にとって魅力的な職場環境や条件を揃えて、企業を担う若い労働力を育てていきましょう。
▷社内への新しい風となり、企業一新に繋がる
日本とは異なる仕事への考え方や姿勢、異文化コミュニケーションが社内の雰囲気を変え、日本人社員の意識改革への強力な手段ともなりえます。
また、日本人とは違った、発想やアイデアを産み出す可能性も期待できます。
中国人を雇用したとき活用できる助成金
中国人雇用の際に、外国人従業員の日本語教育や職業訓練にかかる経費に対して活用できる助成金があります。
雇用調整助成金(中小企業緊急雇用安定助成金)
経済上の理由によって、事業の縮小を迫れられた事業主が、一時的に休業手当や教育訓練によって発生する賃金の一部を補うための資金です。
外国人も休業手当や教育訓練を受ける対象となっています。
生産量が10%減少していること、実施する雇用調整が基準を満たしていることなどの条件を満たしていれば、受け取ることができます。
中小企業緊急雇用安定助成金
失業の予防を目的とした助成金で、従業員を解雇せず、雇用維持を努力する中小企業が対象となっています。
売り上げや生産量が5%減少しているなどの条件があります。
さいごに
今回は中国人を雇用する際のポイントや流れについてご紹介しました。増加傾向にある日本国内の中国人を確保することのメリットは大きいです。
中国人の特徴をしっかり理解して協働していき、お互いが気持ちよくレベルアップしていきましょう。