日本は「国民皆年金」制度を採用している国です。
日本に居住する20〜60歳のすべての人に公的年金制度への加入義務がありますが、日本で働いている外国人労働者も日本人と同様に、年金を支払う必要があるのでしょうか?
外国人を採用するうえで事業主が知っておきたい、年金に関するポイントをまとめました!
国民年金と厚生年金の違い
まずは、日本の年金制度の仕組みを理解することが大切です。
ここでは、簡単に公的年金制度の種類をみていきましょう。
▶︎詳しく年金制度について知りたい方はこちら
日本の公的年金制度の種類は大きく分けると2つです。
1国民年金
基礎年金と言われるもので、日本に居住するすべての人が加入する義務があります。
つまり、自営業やフリーランスに加えて、外国人もこの国民年金被保険者の対象です。
納付額は一律で、16,490円と決められています。
2厚生年金
国民年金に加えて、会社員・公務員が加入する年金です。
一般の保険料率として定められた18.182%(月額所得に対する)を年金保険料として納付します。
一見、支払額が多く見えますが、国民年金と厚生年金を合わせた年金保険料の半分が、給与から天引きされ、もう半分は会社が負担するため、実質個人が負担する保険料は9.019%となります。
受給できる年金の種類は3つに分けられます。
1老齢基礎年金
20歳から60歳になるまでの40年間のうち10年以上払込をすると、65歳から老齢基礎年金が支給されます。
40年間のうち未納期間がある方は、その期間は年金額の計算の対象になりません。
2障害基礎年金
国民年金加入者が、障害認定基準を上回る障害状態になった場合に受給できる障害年金です。
※ただし、保険料の滞納がないことなどが条件になっています。
3遺族基礎年金
国民年金加入者が亡くなった場合に、残された18歳未満の子どもがいる配偶者または子が受給できます。
※障害基礎年金同様、受給には条件があります。詳しくはこちら
外国人被保険者の定義
上述したように、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の方は、外国人であっても基礎年金である国民年金に加入する義務があります。
年金保険に加入している方を、「被保険者」と呼び、日本人、外国人に関わらず、被保険者は第1、第2、第3と3つに分類されます。
以下、分類をみてみましょう。
第1号被保険者
- 日本国内の在住要件:あり(日本に在住していることが必須)
- 年齢:20歳以上60歳未満
- 該当者の例:学生、自営業者、フリーター、フリーランサー、無職の人など。
第2号被保険者
- 日本国内の在住要件:なし(国外居住者も可)
- 年齢:65歳以下
- 該当者の例:会社員や公務員
- 厚生年金、共済年金の加入者。
- 厚生年金保険の適用を受けている事業所に勤務する者であれば、自動的にこの第2号被保険者になる。
第3号被保険者
- 日本国内の在住要件:あり(日本に在住していることが必須)
- 年齢:20歳以上60歳未満
- 該当者の例:第2号被保険者の夫や妻などの扶養家族。
- ただし、本人の年収が130万円以上ある場合は第1号被保険者となる。
外国人が年金に加入しないケースもある?
外国人であっても日本に住所を有し、在留カードを持っている場合は、必ず国民年金に加入する必要がありますが、短期滞在者は対象外です。
また、加入はしていても以下の3つのケースに該当する場合は、保険料が免除される場合がありますので住民票のある市区町村役場で相談してみてください。
- 収入が少ない世帯
- 失業者がいる世帯
- 本人が学生である
これから受給資格が得られる年齢になるまで日本にずっと住み続けるのであれば、年金保険料を支払うメリットがありますが、一時期だけ日本に滞在する外国人の中には、保険料を支払いたくないという方々もいらっしゃるでしょう。
そこで、外国人スタッフが国民保険や厚生年金の支払いに後ろ向きな場合の対処方を次の項目で紹介します。
被保険者かつ年金の支払いが免除の国
前述の通り、外国人であっても国民年金や厚生年金に加入する義務がありますが、中には日本で年金を納付する必要のない国もあります。
年金の二重加入を解消する社会保障協定
社会保障協定とは、「年金の二重加入」の問題を解消するために日本と他の国で結ばれる協定です。
世界各国、国ごとに日本のような国民年金や厚生年金などの補償制度があります。
そのため、自国以外に住まれている方は国籍を有する国と、今暮らしている日本、両国に保険料を支払わなければならない状況の人が出てきてしまいます。
社会保障協定は、このような二重支払いや、納めた保険料が無駄になってしまう事態を(保険料の掛け捨て)解消するためにできた協定です。
社会保障協定を締結している国
日本では、社会保険協定を以下の国と締結しています。
発行済の国
ドイツ/イギリス/韓国/アメリカ/ベルギー/フランス/カナダ/オーストラリア/オランダ/チェコ/スペイン/アイルランド/ブラジル/スイス/ハンガリー/インド/ルクセンブルク/フィリピン
署名済みの国
イタリア/スロバキア/中国/スウェーデン
交渉中の国
トルコ/フィンランド/オーストリア/ベトナム
社会保障協定の内容
上記の社会保障協定を締結している国の中には、「厚生年金のみ社会保障協定を結び、国民年金は社会保障協定を結んでいない」「厚生年金と国民年金ともに社会保障協定を結んでいる」など、協定相手国によって内容が異なります。
保険料の二重支払いや、保険料の掛け捨てを避けるための内容となっています。
日本で働く外国人の方々だけではなく、海外で働く日本人も同じく対象になります。
相手国 | 協定発効年月 | 期間 通算 |
二重防止の対象となる社会保障制度 | 二重防止の対象となる社会保障制度 |
日本 | 相手国 | |||
ドイツ | 平成12年2月 | ○ | · 公的年金制度 | · 公的年金制度 |
イギリス | 平成13年2月 | – | · 公的年金制度 | · 公的年金制度 |
韓国 | 平成17年4月 | – | · 公的年金制度 | · 公的年金制度 |
アメリカ | 平成17年10月 | ○ | · 公的年金制度
· 公的医療保険制度 |
· 社会保障制度(公的年金制度)
· 公的医療保険制度(メディケア) |
ベルギー | 平成19年1月 | ○ | · 公的年金制度
· 公的医療保険制度 |
· 公的年金制度
· 公的医療保険制度 · 公的労災保険制度 · 公的雇用保険制度 |
フランス | 平成19年6月 | ○ | · 公的年金制度
· 公的医療保険制度 |
· 公的年金制度
· 公的医療保険制度 · 公的労災保険制度 |
カナダ | 平成20年3月 | ○ | · 公的年金制度 | · 公的年金制度 ※ケベック州年金制度を除く |
オーストラリア | 平成21年1月 | ○ | · 公的年金制度 | · 退職年金保障制度 |
オランダ | 平成21年3月 | ○ | · 公的年金制度
· 公的医療保険制度 |
· 公的年金制度
· 公的医療保険制度 · 雇用保険制度 |
チェコ | 平成21年6月(※) | ○ | · 公的年金制度
· 公的医療保険制度 |
· 公的年金制度
· 公的医療保険制度 · 雇用保険制度 |
スペイン | 平成22年12月 | ○ | · 公的年金制度 | · 公的年金制度 |
アイルランド | 平成22年12月 | ○ | · 公的年金制度 | · 公的年金制度 |
ブラジル | 平成24年3月 | ○ | · 公的年金制度 | · 公的年金制度 |
スイス | 平成24年3月 | ○ | · 公的年金制度
· 公的医療保険制度 |
· 公的年金制度
· 公的医療保険制度 · 雇用保険制度 |
ハンガリー | 平成26年1月 | ○ | · 公的年金制度
· 公的医療保険制度 |
· 公的年金制度
· 公的医療保険制度 · 雇用保険制度 |
インド | 平成28年10月 | ○ | · 公的年金制度 | · 公的年金制度 |
ルクセンブルク | 平成29年8月 | ○ | · 公的年金制度
· 公的医療保険制度 |
· 公的年金制度
· 公的医療保険制度 · 公的労災保険制度 · 公的雇用保険制度 |
フィリピン | 平成30年8月 | ○ | · 公的年金制度 | · 公的年金制度 |
スロバキア | 令和元年7月 | ○ | · 公的年金制度 | · 公的年金制度
· 公的労災保険制度 · 公的雇用保険制度 |
イタリア | 発効準備中 | – | · 公的年金制度
· 公的雇用保険制度 |
· 公的年金制度
· 公的雇用保険制度 |
中国 | 発効準備中 | – | · 公的年金制度 | · 公的年金制度 |
出典元:日本国民年金機構より
社会保険協定の内容を簡単な例で考えてみましょう。
日本と協定を締結している国を母国に持つ外国人が、母国で23年生活したのちに日本で結婚した。
今後は日本に生活基盤を置くつもりである。母国は16歳から国民年金の納付義務があり、適正に納付済みである。
この場合、この方は今後日本の国民年金に加入し、保険料を支払うことになります。
また、母国ですでに7年間保険料を納付しているので、あと3年日本で年金を納付すれば、日本の老齢基礎年金の受給資格を得ることができます。
母国で支払った保険料は掛け捨てにならず、母国と日本の両方に納付しなくてよいので、二重支払いも避けられるということです。
国別の社会保障協定の詳しい内容と関係法令は、厚生労働省のサイトで確認することができます。
社会保障協定の対象外の国出身の場合は?
社会保障協定を日本と結んでいる国は、約20カ国しかありません。
日本では、外国人であっても日本在住であれば国民年金への加入を、加えて厚生年金保険の適用を受けている事業所に勤務する方は厚生年金への加入を義務付けられています。
そのため、社会保障協定を結んだ国以外が母国の外国人は、脱退一時金制度を活用することができます。
中には、母国が厚生年金の社会保障協定を結んでいないため保険料が掛け捨てられるので保険料を支払いたくない、という外国人スタッフもいるかもしれませんので、その時の対処法として脱退一時金と呼ばれる制度が活用できます。
脱退一時金制度
脱退一時金とは、日本で国民年金または厚生年金に加入した外国人が母国へ帰国した場合に、納付した保険料の一部を日本年金機構に請求できる制度です。
社会保険協定を結んでいれば、保険料の掛け捨ては避けられますが、それ以外の国の人は保険料の二重払いを懸念される方もいます。
万が一、年金の支払いを拒否された場合はこの制度の活用をオススメするのがいいでしょう。
脱退一時金制度を活用できる対象者の条件は以下の通りです。
- 厚生年金の加入期間が6ヶ月以上
- 日本国籍を有しないこと
- 老齢年金等の受給資格(25年)を満たしていないこと
- 出国後2年以内であること
脱退一時金制度の注意点と申請方法
脱退一時金制度は、支払い済みの保険料の一部が返金される制度ですので、全額戻ってくることはありません。
被保険者であった期間によって異なりますので、具体的な金額を知りたい場合は、年金事務所に相談、または日本年金機構のホームページでも確認できます。
脱退一時金制度を利用した場合、日本に保険料を納めていた期間は「ゼロ」とみなされます。
つまり、全く保険料を納めてないとされるのです。
社会保障協定締結国を母国に持つ場合、日本で納めていた期間も母国の年金を受給するための資格期間に合算されますが、この脱退一時金制度を利用した場合は合算されなくなってしまうので、注意が必要です。
再度、日本で暮らすことになって日本の年金に加入した場合、納付期間は一からのスタートになってしまうので、社会保障協定締結国を母国に持つ方は、この制度の利用は慎重に検討しましょう。
脱退一時金制度の申請方法
脱退一時金制度の申請は、日本年金機構に以下の書類を提出します。
- 脱退一時金請求書
- パスポートのコピー
- 日本国内に住所を有しなくなったことを確認できる書類(住民票の除籍の写しなど)
- 請求者本人の口座名義であることが確認できる書類
- 国民年金手帳
※帰国前に日本国内から請求書を提出する場合は、請求書を住民票の転出予定日以降に提出する必要があります。
▶︎参考資料
被保険者であるが年金加入を拒まれた場合の対処方
二重支払いや保険料の掛け捨て問題をフォローするための制度である、社会保障協定を日本と締結していない国も多いため、厚生年金に加入したがらない外国人労働者もいます。
脱退一時金以外で、その場合はどのように対応するべきかみていきましょう。
①年金加入が、就労ビザ変更・更新基準の一つになる
厚生年金の加入を拒否されてしまったら、前述の脱退一時金制度の説明はもちろん、就労ビザ変更・更新の基準になっていることで説得するのも一つの方法です。
厚生年金に加入していないことだけを理由に在留期間の更新を不許可にされることはありませんが、就労ビザ更新に関して入国管理局は、「雇用・労働条件が適正であること」を条件にしています。
②選べる年金納付先
二重支払いを防ぐということは、国籍を有する国と、日本のどちらかには保険料を納付する必要があります。
どちらに支払うかは、日本に在留する期間によって以下のように区分されています。
- 日本に在留する見込み期間が5年未満の場合は自国の年金に加入
- 日本に在留する見込み期間が5年以上の場合は日本の年金に加入
例えば、日本に3年間だけ転勤してきた外国人は、自国の年金に加入し、保険料を支払います。
一方、前述の通り日本で家族をもち、日本に生活基盤を置くつもりである外国人は日本の年金に加入し、保険料を支払うことができます。
また、前述の通り、母国が社会保障制度を締結している国であれば、日本にいる期間の見込みが5年以内の場合は、日本の年金に加入する必要はありません。
日本の健康保険や、厚生年金保険などの適用から外れることもできます。
この手続きには、外国人本人は日本に赴任する前に自国の年金事務所などに、「適用証明書」を提出することで、年金の支払いを免除することができます。
外国人が年金に加入する方法
答えはNOです。
国民年金・厚生年金同様に制度に加入する際は、外国人だからといって特別な手続きは必要ありません。
例:国民年金に加入する際に必要な書類
- 国民年金被保険者関係届書
- 身分証明書(在留カードやパスポート)
代理人による届け出も可能なので、住所がある役所に相談してみましょう。
まとめ
外国人であっても、基本的には日本の年金制度に加入しなくてはなりませんが、その方の母国や、在留期間によって制度はさまざまです。
外国人を採用する場合は、今一度、年金制度を見つめ見直してみるのもいいかもしれません。